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2018.05.25

【企業導入事例あり】職場のメンタルヘルス対策には何をすべき?基礎知識~対策内容までご紹介

メンタルヘルスとは?

 

 

メンタルヘルスケアの定義


企業において、ストレスによる精神面での不調を原因として、働く意欲や生産性が低下したり、場合によっては休職や離職に追い込まれたりするケースが増えています。

社員が日々、精神面での健康(メンタルヘルス)を良好な状態に保つことができれば、こうした事態を未然に防ぐことが可能となり、同時に仕事に対するモチベーション維持にもつながり、業績の改善も期待できます。

メンタルヘルスケアとは、企業が社員のメンタルヘルスを良好な状態に保つために、組織的・継続的に行う取り組みを指しています。

そして、厚生労働省では企業が取り組むべき事項を指針として法律で示すとともに、その取り組みを支援するための事業を行っています。

メンタルヘルスケアの重要性


人材の募集や育成には時間や費用がかかりますので、社員を1人失うことは、一定の経済的損失につながります。

社員1人分の労働力が欠ければ、その間は他の社員の負担が増えることになり、それ自体がストレスになってメンタル不調の原因になるという悪循環も生まれます。

働くことが楽しくない職場は活気もなく、労働生産性も上がりません。

労働生産性が上がらなければ業績の悪化につながる可能性もありますので、メンタルヘルスケアはこうした視点からも見逃すことのできない問題です。

また、社員のメンタルヘルス不調と業務に密接な関係があると認定されると、労災保険の補償対象となってしまいます。

民事上の事業者責任である「安全配慮義務」についてもメンタルヘルス関連の訴訟が増えており、企業の責任が問われるようになっています。

こうした事態を防ぐリスクマネジメントという視点からも、メンタルヘルスケアは重要です。

厚生労働省の推進するメンタルヘルスケア対策とは?

 


厚生労働省では以下に示す「4つのケア」を継続的かつ計画に行うことが、メンタルヘルスケア対策として重要であるとしています。

セルフケア


ストレスを持続的に受けると、身体面、心理面、行動面でさまざまな反応が生じます。これをストレス反応といいます。

この状態が長く続くと、メンタルヘルス不調につながることがあります。
職場には多くのストレス要因があり、知らず知らずのうちに影響を受けますので、まずは自らの力で自身の不調に気付き、解消していく努力が必要です。

これがセルフケアです。

適度な運動習慣をもつことやストレッチなどの体操を行うことのほか、心身の緊張を緩める方法として呼吸法やヨガなどがあります。

最近では、Googleが社員研修として取り入れたことで有名になったマインドフルネス瞑想を取り入れている人も増えています。

ラインによるケア


ラインとは、部長・課長等による部下の監督権限の流れをイメージした言葉です。

上司は部下を普段からよく観察することで、その仕事状況だけでなく、メンタル面での変化に気づくことが重要です。

たとえば遅刻や欠勤が増える、依頼した仕事の報告がなかなか行われない、会話が少なくなるなどです。

よく観察していれば「いつもと違う」ということに気づけるはずなので、なるべく早く気付いて対応することが大事です。

また、産業医を積極的に活用することも考えておきましょう。

何か問題が起きたときに、産業医に相談するという選択肢があることを伝えても良いですし、うまく接することができない部下がいるときは、上司自身がどのような対応をとるべきか相談するという方法もあります。

事業場内産業保健スタッフ等によるケア


事業場内産業保健スタッフとは、メンタルヘルスケアを実施するうえでの具体的な企画立案を行ったり、相談に乗ったりする人員のことです。

たとえば産業医や精神科医、衛生管理者、保健師、心理職のほか、人事労務担当者が該当します。

なお、「事業場内」という言葉が使われていますが、その事業場内で雇用されている人という意味ではありません。また、常勤者1人を「事業場内メンタルヘルス推進担当者」として選任する必要があります。

事業場外資源によるケア


事業場外資源とは、メンタルヘルスケアを実施するうえで利用が可能な公的機関や病院などの組織を意味します。

たとえば産業保健総合支援センター、地域産業保健センター、労働基準監督署、労災病院などです。

ビジネスとして、企業のメンタルヘルスケアをサポートする事業を行っている企業もありますが、その中には厚生労働省から事業場外資源として認定されているところもあります。

企業とメンタルヘルス

 



職場環境は千差万別です。そのため、メンタル不調者が出やすいところとそうでないところがあります。

ここではメンタル不調者が出やすい企業の特徴と、メンタル不調者が出にくい企業の特徴をそれぞれ解説します。

メンタル不調者の出やすい企業の特徴


メンタル不調者が出やすい企業の代表的な例は、長時間の労働や、賃金に見合わない過重な仕事量を与えられているようなケースです。

月に80時間を超える残業や休日出勤が当たり前だったり、常識を超える仕事量を与えられたりするような職場は、メンタル面の不調を訴える社員が出やすい傾向にあります。

また、限られた人数しかいない環境で、性格や仕事の仕方が合わない人と一緒だと、それ自体がストレスの原因になります。

上司の中には部下に対して無自覚にパワーハラスメントをする人もおり、人間関係はメンタル不調者が出る典型的な理由となります。

メンタル不調者を出しにくい企業の特徴


「顧客第一」ではなく「従業員第一」という社是を掲げる企業もありますが、このように、企業のトップが社員を大事にするところはメンタル不調者が出にくい傾向にあります。

上司が部下と積極的にコミュニケーションをとろうとする姿勢があるところは、部下に何か問題があっても気づくのが早いです。

先述した「ラインによるケア」がよく実行されているということです。

メンタルヘルス対策事例


メンタルヘルスケア対策の具体的な内容は、各社によって大きな違いがあります。

どのような対策を講じれば良いかわからないのであれば、具体例を参考にして考えると良いでしょう。

ここでは5社が行ったメンタルヘルスケア対策の事例を簡単にまとめます。

 



①飲食料品小売業を営むA社の事例

A社は多くの店舗を運営する小売業ですが、各店舗では人間関係がうまくいかず、メンタル不調を訴える社員が多くいました。

メンタルヘルス担当者は、社員が不満を抱えたままだと接客の質も下がり、お客様が満足しないのではないかと考えました。

そこで、約4000名の社員全員を対象とした人事面接を行って詳しくヒアリングをしたり、社内に心理相談室を設けたりして対策した結果、1年で560件もの相談が寄せられるようになりました。

②介護福祉施設を営むB社の事例

職員の多くは介護職ですが、介護の仕事は力仕事としての面だけでなく、高齢者の気持ちを理解して行うことが大事なので、心身両面でかなりハードです。

そのため、B社のメンタルヘルスケア担当者は、職員が多大なストレスを抱えて日々の業務を行っていることは承知していました。

そこで、問題を未然に防ぐため、担当者はメンタルヘルスケアを組織全体で取り組むための体制を作りました。

具体的にはライン管理者を中心とする管理体制や「めんたる案内所」の開設などです。

そして、自分の精神面の健康を自分で守ることの必要性を教えるため、全職員に対してセルフケア研修を行っています。


③衛生用品等の開発・製造・販売サービスを営むC社の事例


C社では、従来から産業医との面談や職場復帰支援などの個別対応を行っていましたが、さらに「予防」「自己管理」という観点にもとづいて「メンタルヘルス支援室」という組織を新設しました。

また、社員が自らメンタルヘルスケアについて考える機会を与えるため、社内でメンタルヘルスケアについてのメールマガジンを発行しています。

そのほかにも定期健康診断においてストレスチェックを実施したり、メールによる相談窓口を設置したりする工夫を行っています。

④医療業を営むD社の事例


D社ではまず、メンタルヘルス対策として「メンタルヘルスケア推進委員会」を設置しました。

そして、研修会の開催、管理者を中心とした体験カウンセリングの実施、そして「心の相談室」の設置などを行いました。

D社が工夫したのは、カウンセリングを受けることには心理的な抵抗があることを予め予測して、利用の少ないときは体験カウンセリングを受けられるようにしたり、委員会のメンバーが気になる職員に対して積極的に声掛けをしたりするなどした点です。

対策を行った結果、メンタルヘルス対策を法人として重視していることには安心感があるという感想も寄せられたとのことです。

⑤医薬品製造業を営むE社の事例

E社はメンタル不調を原因とした休職者はいませんでしたが、不調者が出たときの対処法が決まっておらず、危機感を抱いていました。

不調者がいないがゆえにノウハウがなかったため、メンタルヘルス推進支援の専門家に依頼して対策を講じました。

専門家に指摘されたのは、本当に不調者が全くいないのかという点でしたので、全従業員を対象にストレスチェックを行ったところ、不調予備軍にあたる人が数名、いることが判明しました。

E社でも相談窓口を設置しましたが、そのときに各部署から「話しやすい人」を相談員として選ぶという工夫をしています。

ストレスチェック制度について


ここでは、労働安全衛生法により実施が義務付けられている「ストレスチェック制度」について詳しく解説します。

ストレスチェック制度の仕組みとは?


50人以上の労働者がいる事業場では毎年1回、すべての労働者に対して「ストレスチェック」を実施することが必要です。

ストレスに関する選択式の質問票を作成し、それに答えてもらうという形で実施します。

その結果を医師等が評価し、本人に結果を直接、通知します。必要があると判断された労働者は、医師の面談を受ける必要があります。

ストレスチェックを行ううえで大事なのは、質問票の中身を第三者や人事権を持つ職員が見ないということです。

プライバシーの保護が十分になされる必要があり、ストレスチェックの結果をもとに事業者が労働者に不利益な取扱いを行うことは法律で禁止されています。

ストレスチェックの意義


ストレスチェックを簡単に言えば、「心の健康診断」です。

定期健康診断が病気を未然に防ぐことを目的としているのと同じで、ストレスチェックもメンタル不調を自覚し、対策を立てることが目的で行われます。

ストレスも身体の病気と同じで、自覚症状があるとは限りません。それを、専門家が開発したいくつかの質問に答えていくことであぶり出し、自覚をうながすのです。

そのため、ストレスチェックを受けて何か気になることがあれば、気軽にメンタルヘルスケアの担当者や産業医に相談できる体制を作るのが望ましいです。

ストレスチェックの今後


ストレスチェックは社内で実施せず、外部委託することもできます。

ストレスチェックのサービスを提供している企業は多くあり、ストレスチェックの実施から労働者との面談、労働基準監督署への報告などもまとめて引き受けてくれます。

また、個人の結果を一定規模のまとまりの集団ごとに集計・分析することを集団分析といいますが、これも合わせて行ってくれるため、自社で行うよりも良い結果が期待できます。

ストレスチェックを外部委託する企業は徐々に増えている傾向にあります。

まとめ



 

先述したとおり、メンタルヘルスケア対策は「4つのケア」で構成されています。

その多くは企業側で行うことですが、セルフケアについては最終的に、従業員が自分自身で行うしかありません。

そのために企業ができることはセルフケアの大切さを伝え、ストレスを解消するのに効果的な方法を体得してもらうことです。

事例からわかるとおり、社内でセミナーを開催して学んでもらう機会を作るのも1つの効果的な方法ですので、検討してみると良いでしょう。

 

 

 

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ゆりこ政岡
yuriko
㈱インナーコーリングにて、仏教の八正道に基づいた法人向けのマインドフルネス瞑想研修・セミナープログラムを推進する傍ら、ブログの管理・記事制作なども行っています。 今後は、自身もマインドフルネスに精通すると共に、イベント取材などのレポート記事などの連載も継続予定です。
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